「暑さ対策/寒さ対策」両方に効果的な「地中熱」とは?地中熱利用の現状について活用例をもとに解説

多くの工場や倉庫、店舗が抱える建物内の温度を快適に保つという課題解決の手段としても注目されている地中熱と活用例イメージ

1年を通して建物内の温度を快適に保つことは、多くの工場や倉庫、店舗が抱えている課題ではないでしょうか。
「暑さ対策」「寒さ対策」を行う事は、従業員の集中力や判断力を保ち、生産性の向上や品質の維持に効果的と考えられています。

最近注目されているのが、「地中熱利用」。
地中熱とは地中に自然に存在する熱のことで、それを利用した地中熱利用システムの開発が国内外で活発化しています。

「地中熱とはどういうもので、どのように利用されているのだろうか」「地中熱を空調(冷房・暖房)に活用することで本当に省エネになるのだろうか」「地中熱の開発はどこまで進んでいるのだろうか」「暑さ対策にも寒さ対策にも使えるってどういうことだろうか」など、地中熱に関する疑問は尽きないでしょう。

そこで本記事では、地中熱とは何かを説明するとともに、地中熱の活用方法についてもご紹介します。

暑さ対策と寒さ対策に使える「地中熱」とは

多くの工場や倉庫、店舗が抱える建物内の温度を快適に保つという課題解決の手段としても注目されている地中熱が存在する地層のイメージ

地中熱とは、地表から200メートルほどの深さにかけて存在する熱のことです。
特に地上から深さ10メートル程度の地中では温度が一定していて、夏は地上よりも涼しく冬は暖かい特徴があります。

地中熱の温度(地温)は地域によって異なりますが、東京の地温は17度ほどです。

地中熱と地熱の違い

地中熱と似た言葉に「地熱」がありますが、地中にある熱でも両者は異なる性質を持つものです。

地中のごく浅い場所にある地中熱に対して、地熱はもっと地球の中心部に近い場所から発せられています。
火山が持つ熱というと、イメージしやすいのではないでしょうか。火山から吹き出るマグマの温度は1,000℃前後といわれていて、地中熱の温度とは大きく異なります。

地熱も再生可能エネルギーの一つですが、主に熱源として利用されている地中熱に対して、熱源に加えて事業用の発電にも用いられています。

なぜ地中熱システムが注目されているのか

地中熱が注目されているのは、今よりも効率よくエネルギーを使えるうえ、省エネと電気代の削減につながるからです。

地中熱は自然界に存在し、一定の温度を保っています。そのため、特定の温度を維持するために、空気熱ほど冷やしたり温めたりする必要はなく、結果的にランニングコストの削減につながります。

燃料や電気の使用が少なくなるというのは、省エネや二酸化炭素の排出も抑えられるということです。

ある調査では、オフィスビルにおける空気熱源ヒートポンプと地中熱ヒートポンプシステムにかかる電気料金は、後者の方が前者よりも25%程度削減できると試算されました。

参照:『地中熱読本2021』(環境省)

地中熱利用の形態について

地中熱利用には異なる形態があります。主な利用方法は、以下の5つです。

  • ・地中熱ヒートポンプシステム
  • ・熱伝導
  • ・空気循環
  • ・水循環
  • ・ヒートパイプ

地中熱ヒートポンプシステム

ヒートポンプシステムとは簡単に言うと、空気中の熱を集め、ポンプを使ってそれを必要な場所に移動させることです。地中熱ヒートポンプは地中熱を利用するタイプのヒートポンプシステムですが、以下のように2種類の方式があります。

・クローズドループ方式:
地中に長さ20~100メートルほどの地中熱交換器(Uチューブ)を埋め、そこから熱を集めてヒートポンプに送り込み、熱交換をする

・オープンループ方式:
くみ上げた地下水を冷媒にして作られた熱をヒートポンプに送り込み、熱交換をする

地中熱ヒートポンプシステムは、冷暖房や空調、給湯などを目的に、大小さまざまな規模の施設や店舗に導入されています。

熱伝導

熱伝導とは、地中から伝わってくる熱を利用した地中熱利用システムの一つです。
熱伝導を取り入れた住宅は地中熱を確保し室内を保温できるように、床と地面を接触させて土間を作るなどの工夫がされています。

空気循環

地中熱を利用した空気循環とは、熱交換パイプなどを地下に埋没させて外気を取り込み、それを温めたり冷ましたりした後に、室内に戻す仕組みのことです。このシステムは、換気や室内の温度調節などを目的に、住宅やビルなどの建物に導入されています。

水循環

地中に循環ポンプを埋めて、水や不凍液から発生する熱を利用したシステムが水循環です。水循環には2種類あり、以下のようにそれぞれ仕組みが異なります。

・クローズドループ(地中熱交換)方式:
地中に埋めた地中熱交換器と放熱管を接続し、不凍液などを循環させて熱を必要な場所に送る

・オープンループ(地下水循環)方式:
路面直下に張った放熱管と、水中ポンプが挿入された上水井と還元井とで構成されている。温めた地下水を放熱管に通して熱を必要な場所に送る

ヒートパイプ

ヒートパイプとは、冷媒を蒸発・凝縮させて熱交換するシステムのことです。
地中に地中熱交換井を埋め、そこに冷媒の入ったヒートパイプを挿入し、路面に面して放熱管を張ります。雪などで路面の温度が下がると、冷媒は自然に液化し地中熱を取り入れ蒸発。
ヒートパイプから取り入れられた地中熱は、放熱管に運ばれて雪や氷を溶かします。

地中熱の活用例

地中熱の活用例としてあげられる、工場や倉庫、店舗などの大型施設の冷暖房や空調、道路の融雪、温水プールや温泉のイメージ

地中熱利用は、近年に始まったとお考えになるかもしれませんが、実は昔から熱源として用いられていました。例えば、竪穴式住居。竪穴式住居の特徴は、地面を数十センチ掘って作られた土間ですが、現在の地中熱利用システムの一つである熱伝導の仕組みと原理は同じです。

その他の例としては「室(むろ)」があります。
室とは、食べ物の保存などを目的に自宅の一部を掘り下げて作るスペースのことです。室も古くから用いられていましたが、現在でも収穫した野菜の保存に室を利用している農家もありますし、ワインを貯蔵するワイナリーも室の一種と言えるでしょう。

現代の地中熱利用システムの開発が始まったのは1980年代頃。以来地中熱利用システムは、私たちの身近なところで活用されています。以下に事例をご紹介します。

①道路の融雪

道路の下に埋め込まれた配管に、地中熱で温められた不凍液などを循環させます。温められた路面は凍結しにくくなり融雪にもつながります。地中熱を利用した融雪システムは、ランニングコストがほとんどかからないことから、雪の多い地方において導入が進んでいるということです。

②大規模施設の冷暖房

ローコストで冷暖房が可能となる地中熱利用システムは、野菜の栽培やデータセンター、鉄道施設など、さまざまな施設で活用されています。東京駅丸の内近くにあるJPタワーは、ビル内の冷暖房と空調を地中熱システムで管理していて、その利用状況はビル内に設置されているパネルで確認可能です。

③安定した熱源の確保

地中熱ヒートポンプを導入することによって、1年を通して安定した熱源の確保が可能です。常に適温を保つ必要のある病院施設や、水温を一定に保つ温水プール施設においても、地中熱利用システムは活躍しています。

地中熱の今後の展望

多くの工場や倉庫、店舗が抱える建物内の温度を快適に保つという課題解決の手段としても注目されている地中熱利用の導入が増加していくイメージ

地中熱の利用は、海外においても取り組みがなされています。
例えばオランダでは帯水層蓄熱システムの導入が加速していて、2000年には500件未満だったのが、2013年には3,000件を超えたということです。

帯水層蓄熱システムは地中熱利用システムの一つで、帯水層に蓄えられた排熱を熱エネルギーとして使い、二酸化炭素の発生やヒートアイランド現象(都市部の気温が、周辺部の地域の気温よりも上昇する現象のこと)を抑えています。

参照:『地中熱読本2021』(環境省)

2019年度時点の各国における地中熱利用ヒートポンプシステムの導入状況を見ると、日本の普及率はそれほど高くはありませんでした。

▼各国の設備容量

2019年度時点の地中熱利用ヒートポンプシステムの各国の設備容量

引用:『地中熱読本2021』(環境省)

しかし、2022年3月時点では8,700件の採用事例があります。

令和4年度地中熱利用状況調査結果による2022年3月時点での採用事例8,700件の内訳

参照:『令和4年度 地中熱利用状況調査結果』(環境省 水・大気環境局水環境課 地下水・地盤環境室)

他国では助成制度を設けるなど地中熱利用ヒートポンプシステムの普及に積極的に取り組んでいます。日本でも、政府が地中熱利用システムの補助金を設けて導入を促進していますが、こうした取り組みがなされることによって、今後も地中熱利用システムを導入する工場や倉庫などの大型施設が増加すると予測されます。

まとめ

地中熱の基本情報から地中熱利用システムの活用方法まで解説しました。
地中熱は、保温を目的に昔から人々の暮らしを支えてきたエネルギー資源です。現在では熱伝導をはじめ地中熱ヒートポンプや水循環など、さまざまな形態が開発され、温度管理や空調などに利用されています。

日本における地中熱利用システムの普及は海外と比べると遅れている感はありますが、導入のしやすさや認知度が上がることによって、コストを抑え環境にやさしい施設が増えることが予想されます。
特に工場や大型店舗など大規模施設への導入が進むことで、二酸化炭素の削減や省エネに大きく貢献できるのではないでしょうか。

今後の地中熱利用システムの発展に期待が集まります。

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