塗料は「製品」ではなく「半製品」?ミラクール開発者が考える「施主様が満足する塗料」とは?塗料開発の裏側
この記事のリンクをコピーしました。
知っているようで知らない「塗料」。
建物や自動車などの表面を美しく仕上げるだけでなく、さび止めや遮熱、防水層の保護などの様々な機能も持ち合わせていますが、実はその種類や特性含め、ご存じの方は意外と少ないのではないでしょうか?
材料・原料は何?
どうやって作られているの?
性能の違いはどうやって出すの?
などなど…
塗料を知ることで、読者の「課題解決のヒント」になるのでは!?と思い
塗料メーカー「ミラクール」で研究開発を担う、中条さんとベテラン技術者Bさんにインタビューを行ったところ、(単純な私が)想定していた答えとは違った回答が…
ポイントは「塗料の時点ではまだ『半製品』」であること。
それを心に留め、研究開発に挑めば、施主様が本当に満足する『完製品(完成品)』に近づくこと。
それでは、インタビューの詳細をどうぞ!
まず、簡単な自己紹介をお願いできますでしょうか?
中条さん:
はじめまして、私は中条と申します。学生時代には工学部応用化学科で学び、生化学関連の研究に取り組んでいました。現在は、別の分野ではありますが、ミラクールの研究開発部門で塗料に関する研究を行っています。
資格としては、危険物取扱者甲種を取得しています。よろしくお願いします。
ベテラン技術者Bさん:
私もミラクールの研究開発部門に属しており、中条さんと同じく、主に塗料の開発に携わっています。
経歴は……「とってもシャイなBさん」ということで、どうかご容赦ください。
若い人には、どんどん主役になってほしいなと思っております。
普段、研究開発はどのように進めているのですか?
中条さん:
塗料というのは複数の原材料が合わさった混合物です。
開発の際には、材料を一つずつ組み合わせますが、複数の原料を使用するため、組み合わせの数は膨大になります。
ある意味「無限」の組み合わせがあるので、これまでの経験を生かした予測に基づいて、数パターンの組み合わせに絞り込んで、実際に塗ってテストを行っています。
料理作りと似ている感じがします
Bさん:
はい。そうですね!
例えば「ポタージュスープ」に例えると、
・ジャガイモ、カボチャ、コーン…メインの素材は何にするのか
・定番は洋風だけど、和風の出汁にしてみるか
・ミルクを入れてマイルドな口当たりにするか
他にも、トロミをつけたり、塩梅を調整したり…
細かいところまで突き詰めて、最終的にレシピを完成させるように、塗料も開発者の技術やテクニックが必要なんです。
その過程には、細かい色々な「試験機」や「試験項目」がありますが、それをクリアしてやっと製品に辿り着くわけです。
中条さん:
料理にジャンルがあるように、塗料にも用途に合わせたレシピが必要です。
鉄部用、コンクリート用、プラスチック用、防水材用…様々あります。
塗料のメインとなる材料は「樹脂」で、骨格となる部分です。
樹脂は種類によって、どのような用途に向いているかが異なります。
まずは、その用途に合わせてベースとなる樹脂を選定し、それに応じたレシピを作り出しています。
同じ効果を狙う塗料でも、用途によってレシピに大きな違いがあるのでしょうか?
Bさん:
はい。塗装箇所が、鉄なのか、アスファルトなのか、モルタル、コンクリートなのかによって、塗料のレシピも全然違います。
例えばアスファルトというのは、夏場は柔らかく伸びる性質があり、冬は逆に固くなるんです。
え?どういうことですか?アスファルト伸びるんですか?
Bさん:
固定観念ですよね。笑
アスファルトは固い液体のようなもので、ゆっくり力を加えると変形するようです。だからアスファルトに咲く花があったり、ときにはアスファルトをかきわけて育つ大根のニュースが報じられたりするんですよね。
塗料って、塗る相手が固くて「動かないもの」「(形状などが)変化しないもの」だと皆さん思っているんです。でも違うんです。
中条さん:
よく交差点周りで「わだち掘れ」といって、タイヤの溝があるのご存じですか?
これは長期間車が走行することで、道路の舗装面が荷重に耐えられなくなって、タイヤの通る部分だけがくぼみ、元に戻らなくなってしまった状態です。
特に、夏の暑い時期にアスファルトが柔らかくなっている時に発生しやすいです。
こういった変化に「追従できるような塗料」でないと、塗膜が切れたり、割れたり、剥がれたりしてしまいます。
さらに「付く(追従する)のが当たり前」だけでなく、「なるべく汚れない」といった様々な条件に合わせて、種類、グレードを選択する必要があります。
↑ わだち掘れしたアスファルト
Bさん:
鋼鉄の屋根なんかも意外と動くんですよ。
寒くて縮んでいるところへ、太陽光で温められて戻るときなんかです。
よく「バーン!」て音がして驚いたりします。
他にも、線路のレールの継ぎ目部分は、開けているのご存じですか?
金属の鉄板も鋼板も夏場は伸びるので、くっついていると曲がってしまったりしてしまうんです。
そういった不具合が起きないように、様々なシチュエーションを想定して試験を繰り返しています。
なるほど…塗料を使った後の事も考えているんですね。
Bさん:
はい。実際にこのラボで様々な実験を繰り返し「よし!大丈夫だ!」と結果が出たとしても、地域でいえば、北海道から九州、沖縄まで、寒い地域から暖かい地域まで、さらに海岸沿いだと塩害があったり…環境もさまざまです。
そのため、実際のフィールドで使い、お客様の声を聴いて、さらに改良につなげていく、ということも行っています。
↑ 強い紫外線や風雨を受ける沖縄県での塗料野ざらし(専門用語で屋外暴露試験)試験をしている様子
塗る対象が「変化しやすいもの」があると伺いましたが、それに合わせて塗料の硬度も変えるのでしょうか?
中条さん:
はい。樹脂には硬さやグレードがあるので、その中から選定します。
樹脂メーカー自体も「これは屋根用」「これは防水剤用」にとか、用途に合わせた提案があります。
防水剤用は柔らかくないと切れてしまうので伸びやすい性質を持ち壁用の場合は、柔らかすぎると一般的に汚れがつきやすくなりクレームになる可能性もでるので、少し硬めの樹脂を選んだりしています。
特徴のつかめていない樹脂もあるので、その時は調べて試しながらやるしかないですね。
開発するうえで何か心掛けていることありますか?
Bさん:
普段は営業から依頼が来て作ることが多いです。
作るのは我々開発者ですが、売るのは営業ですので、品質と価格のバランスは非常に重要視しています。
実は、基本的に高価な原料を使えば、いいものができるんです。
だいたいはそうなんです(笑)
フッ素樹脂塗料を使えば耐候性の良い塗料ができます。
弊社でも超高耐候性を発揮する水性フッ素樹脂塗料を製造販売しています。
でも、期待ほど売れていません。
寿命は長いし性能も良いのですが…、お値段も多少上がっちゃいます。
技術者としては製品ぜんぶフッ素樹脂で設計したいぐらいですが…(笑)、
それはさすがに営業からNGが出るでしょう。
中条さん:
いくら高性能な塗料でも、コストが高すぎたら売れなくて、お客様の課題解決につながらないんですよね。
やはり皆さん、低価格で高品質なものが欲しいんです。
研究開発の段階でなるべくコストを抑えながら、高い効果を発揮できるようなレシピを考えています。
闇雲に「いろんな材料使いました」「できました」「でも高いです」では良い製品とは言えないです(笑)
シェフとしてはいい作品ができたけど、お客さんが高くて食べてくれなかったら、おなかを減らしたお客様にも申し訳ないですよね。
そのために私たちは日々研究開発しています。
↑ ラボで実験中の中条さん
製品開発において、一番苦労することは何ですか?
Bさん:
我々は塗料を作って製品として出すんですが、実際の塗料というのは、塗装屋さんが塗装して、お客様の被塗物に塗って、乾いて、それで初めて本当の意味での「最終的な製品」になるんです。
つまり、我々の作った状態は「半製品」を出しているといえます。
この点が非常に難しいんです。
例えば塗装業者さんから「不具合が起きた」と報告がきた場合、
塗料の品質以外にも
・塗装環境はどうだったか?
・当日の天候は?
・職人さんの技術に問題はなかったか
など、様々な要因が考えられます。
そういった原因を全て調査・特定し、改良を加える必要があります。
中条さん:
きちんと管理された工場で塗られれば、きちんとしたものができます。
しかし、高温多湿な現場で塗装すると不具合が生じる可能性もあります。
やっぱり、塗る方もギリギリまで塗ったりしますね。納期もありますし。
(その気持ちや事情も分かるんですが…)
「途中で雨降りませんでした?」と聞くと「え?降ってないですよ」とかね(笑)
自分たちのコントロールできない部分、つまり外的な要因がたくさんあって、それが難しいところです。
長年の経験とノウハウがあるにせよ、やってみないと分からないことも多そうですね。
Bさん:
はい、基本はトライアンドエラーです。
一回で完成なんてことはほとんどないです。より良い配合はないか、考え出すときりがないですね。
例えば、こっちの補助剤を使ったら別で不具合が出たり、相乗効果が出ることもありますが、逆に災いすることもあります…
中条さん:
料理の場合、基本的に「目の前のお客様」が食べてくれますが、塗料はいつ使われるかわからないんです。半年後なのか一年後なのか、性能を保つ保証期間内でいつ使っても大丈夫という「安定性」も大事です。
最終的なユーザー様は「施主様」ですが、その前は「塗装屋さん」になります。
塗装屋さんが「なんだこの塗料、塗りにくいし、使いたくないな」と思われてしまったら、リピートされなくなってしまいます。
そのためには、使いやすさ・塗りやすさというのも大事なんです。
↑ 塗装屋さんに「塗りやすいな!気持ち良くのびていくなぁ!」と思っていただきたいんです
最後に今後の展望について教えてください。
Bさん:
私たちは、塗料を販売する会社や塗料を塗る職人の方、そして施主様のすべての方々が満足できる製品を目指しています。
もちろん、それは簡単なことではありません。施主様が抱える様々な問題を解決する塗料を開発しても、それが売れなければ意味がありません。
また、塗りにくかったり、使い方が難しければ、製品の効果も半減してしまう可能性があります。つまり、実際に使う人たちのニーズを想定して開発することが大切なのです。
今後も私たちは、研究開発を重ね、より多くのお客様に喜んでいただける製品を提供していきたいと考えています。
今回はミラクールの研究開発について伺いました。
次回は、実際に研究開発を重ね誕生した、とある画期的な塗料の開発秘話についてお話を伺います。
ぜひお楽しみに!
この記事をシェアする
この記事のリンクをコピーしました。
あなたにおすすめの記事